精神病を理由とした離婚請求は認められる?
民法は、離婚原因の一つとして、配偶者が回復の見込みのない強度の精神病にかかっていることを規定しています(民法770条1項4号)。また、これに当たる場合でも、一切の事情を考慮して婚姻継続を相当と認めるときは、裁判所は離婚請求を棄却できます(民法770条2項)。
今回は精神病を理由に離婚請求が認められたケースを事例・判例を交えて解説します。
最判 昭和45年11月24日事例(判例)
本判例は、民法770条2項の適用はなく、同条1項4号に当たるとする離婚請求が認められたものです。
【事実】
夫と妻は、昭和30年に婚姻し、一女をもうけました。妻は人嫌いで近所との付き合いもなく、夫の経営する新聞販売店の従業員とも打ち解けず、店の仕事に無関心で全く協力しませんでした。そのため夫は離婚したいと考え、昭和32年12月に離婚調停を申し立て、以後、別居状態でした。
離婚調停中の昭和33年4月、妻は精神病になり入院したため、夫は離婚調停を取り下げました、妻は昭和39年1月に禁治産宣告を受け、妻の父が後見人に選任されました。
妻は、一時退院したものの、昭和38年4月から入院し、以後控訴審の口頭弁論終結時の昭和44年7月においても入院中でした。夫は、民法770条1項4号に基づき妻に対して離婚及び長女の親権者を夫に指定することを求める本件訴訟を提起しました。
【判旨】
民法770条1項4号と同条2項は、単に夫婦の一方が不治精にかかった一事をもって、直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきではなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである。
ところで、妻は、婚姻当初から性格が変っていて異常の行動をし、人嫌いで近所の人ともつきあわず、夫の店の従業員とも打ちとけず、店の仕事に無関心で全く協力しなかったのであり、そして、昭和32年12月21日頃から上告人である実家の許に別居。
そこから入院したが、妻の実家は、夫が支出をしなければ妻の療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕はないにもかかわらず、妻の過去の療養費については、昭和40年4月5日夫との間で、妻が発病した昭和33年4月6日以降の入院料、治療費および雑費として金30万円を妻に分割して支払う旨の示談をし、即日15万円を支払い、残額をも昭和41年1月末日までの間に約定どおり全額支払った。
妻においても異議なくこれを受領しており、その将来の療養費については、本訴が第二審に係属してから後裁判所の試みた和解において、自己の資力で可能な範囲の支払をなす意思のあることを表明しており、夫と妻との間の長女は夫が出生当時から引き続き養育していることは、原審の適法に確定したところである。
そして、これらの諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、…夫の民法770条1項4号に基づく離婚の請求を認容した原判決は正当として是認することができる。
判例・事例のまとめ
精神病になってしまった配偶者の保護を考えれば、簡単に離婚請求を認めることは妥当ではないといえます。
もっとも、相手が重度の精神病にかかってしまった場合には、夫又は妻の負担は重く、どのような場合にも離婚が認められないとすることは、当事者には酷です。
本件のように、精神病の相手方に配慮して、貧しいながらも療養費を捻出したり、将来の治療費の支払いの意思を表明している場合には、離婚請求が認められるとした裁判所の判断は妥当ではないかと思います。
離婚事例・判例ラボ編集部
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