離婚を決意した時には、おそらく大半の方が、まず夫婦間で話合い合意に至る「協議離婚」の方法を取ると思います。
しかし、中には夫婦間で話し合っても離婚の合意ができない場合もあります。その際には家庭裁判所における離婚調停(調停離婚)へとすすみます。もし、調停でも離婚の合意に至らないときは、訴訟(裁判離婚)の方法で離婚請求を行なうという流れになります。
離婚請求においては「有責配偶者」という言葉が存在します。裁判所においては有責配偶者側から離婚請求は倫理や社会道徳的に(落ち度のない配偶者を守る意味もこめて)、これまでは原則認められていません。しかし昭和62年の最高裁判決において有責配偶者からの離婚請求を認められる判決があり、その後は一定要件を満たすことで有責配偶者からの離婚請求を認める判断となりました。
今回は有責配偶者とはどのような立ち場における人であるか?また有責配偶者からの離婚請求を認められる要件とはなにかを詳しく解説していきたいと思います。
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有責配偶者とは?
有責配偶者とは端的にいうと、離婚に至る原因を作った側の配偶者のことです。離婚に至る原因をわかりやすくいうと、不倫(不貞行為)を行ったり、暴力を振る行為(DV)などです。
裁判離婚にて離婚をするためには、民法770条で定められた離婚事由が必要になります。その事由(原因)を生んだ配偶者は離婚に至った責任があるため、「有責配偶者」と呼ばれます。
離婚事由に関しては下記の記事で詳しく紹介しているのであわせてご確認ください。
この項目は弁護士による監修を行った内容を記載しております。
有責配偶者の離婚に関して
原則的に有責配偶者は離婚請求(裁判離婚)はできない。
まずは大事なことは基本的には離婚原因による被害を受けた側の配偶者が離婚を拒絶している場合には、有責配偶者からの離婚請求によって裁判で離婚が成立することはありません。
その理由に関しては裁判所においては、自分から離婚原因を作っておいて、身勝手に離婚を主張することは倫理や社会道徳的に(落ち度のない配偶者を守る意味もこめて)認めないという考え方からです。
そのため、有責配偶者が離婚をする為には原則的には、離婚原因による被害を受けた側の配偶者に離婚を受け入れてもらう必要がある為、「協議離婚」もしくは「調停離婚」が一般的な方法になります。
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有責配偶者でも離婚できるケースについて
有責配偶者からの離婚請求を認めた最高裁判例(最高裁昭和62年9月2日判決)
上記のとおり、基本的には離婚事由となる行為を行ってしまった有責配偶者側からの離婚請求は認められていませんでしたが、昭和62年の最高裁判決で有責配偶者からの離婚請求が認められたケースが存在します。
-事実-
夫と、妻は、昭和12年2月1日に婚姻をしました。
2人の間には、子供がいなかったのでBの子供を夫と妻の養子に取ることにしました。昭和24年頃、妻は、夫とBが不倫関係にあることを知りました。昭和24年8月から、夫とBは一緒に住むようになり、ふたりの間には子供が生まれました。
昭和59年に、夫は、離婚調停を起こしましたが、不調に終わったので、訴訟となりました。
-判旨-
5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきである。
しかし相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
その場合、有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。
有責配偶者からの離婚請求も認められることがある条件について
上記の判例によると、「婚姻の破たんしている夫婦関係を形式的に維持させることは問題がある」という考え方を前提に、裁判所は一定の要件(条件)において有責配偶者からの離婚請求を認めることにしました。
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有責配偶者からの離婚請求が認められることがある一定の要件とは?
- 夫婦の別居期間が長期間に及んでいる。
- 夫婦の間に未成熟子がいない。
- 離婚される側の配偶者が離婚によって精神的、社会的、経済的に過酷な状況にならない。
上記の要件を基本要素として、裁判所が個々に経緯や状況をふまえて判断を行なうことになります。上記の一定要件についてのどのような解釈がされるかを解説していきます。
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夫婦の別居期間が長期間に及んでいる。
裁判所からは夫婦の別居期間が長期間に及んでいることという要件が出されています。それでは別居期間がどの程度の長さになれば、有責配偶者の離婚請求は認められているのでしょうか?
こちらに関しては実際のところは、夫婦の別居期間がどの程度の長さになれば有責配偶者からの離婚請求が認められるかについては、一律的な基準が明確に示されてはいないのが現状です。別居期間に関しては判例によって、差異がありますが、大体は6-8年程度であることが多いようです。夫婦が別居をすることは婚姻関係の本質的な意味である「夫婦の共同生活」が壊れた状態になるため、別居の状態が長期化することでて婚姻の破たんが認められやすくなりケースが多いといえます。
この点に関しては、別記事で実際の判例を取り上げていきたいと思いますので、そちらもご参考にしてください。
気をつけなくてはいけない点は、単純に別居期間だけで離婚が判断されるものではないということです。
未成熟子の有無や離婚される側の配偶者が,その後における生活へのダメージなど各要件を合わせて総合的に判断がされますのでこの点はご注意ください。
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夫婦の間に未成熟子がいない。
未成熟子とは、まだ経済的に独立することが期待できない子供のことを指します。未成年の期間と重なることもありますが、成人後も学生生活が続き、社会に出ていないケースなど成人後も親からの扶養を受けなければ自立して生活することのできない子は未成熟子の概念に含まれるケースがあります。
養育費の支払い時は離婚時に養育費の支払い条件を考えるときには、この未成熟子の考え方が用いられます。※家庭裁判所では、基本的に養育費の支払いの区切りは成人までと考えているようです。
養育費の考え方や相場金額などに関してはこちらの記事もご参考にしてください。
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離婚される側の配偶者が離婚によって精神的、社会的、経済的に過酷な状況にならない。
離婚をされる側の配偶者に関しては、離婚しなければならない主な原因はないと考えられます。そのため、有責配偶者からの離婚請求を裁判所が認めることで、離婚原因を持たない配偶者(有責ではない配偶者)が離婚後に厳しい状況に置かれることは社会正義に反する結果となります。
そうしたことから、離婚原因を持たない配偶者(有責ではない配偶者)の側が離婚しても経済的に困ることなく生活できることが裁判所が離婚請求を認めるときのポイントになります。またその他にも周囲からの目や対応(社会的)などや精神的な面においても過酷な状況にならないことが裁判所における離婚請求を認めるか否かのポイントとなるケースが大きいようです。
こちらも別居期間と同様に明確な指針はありませんが、過去の判例などを使って、解説する記事を更新していきたいと思います。
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まとめ
協議離婚・調停離婚でも離婚の合意がまとまらず、裁判離婚を目指して、離婚請求を行ったとしても、離婚請求を行った側が有責配偶者であった場合は離婚請求は原則認められません。
ただし、まったく離婚請求が認められないというわけではありません。有責配偶者からの離婚請求を認められることがある一定要件を満たしているのか?が重要になります。
これらの要件は数値的な指針があるものではないため、過去の判例などに詳しい専門化と相談のうえ、一定要件を満たす可能性があるのかを見極めてから行動することをおすすめいたします。
離婚事例・判例ラボ編集部
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